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そんな朝。

『おおにしさん、私、結婚します』
『え、そうなの、おめでとう』
『ありがとうございます』
『誰とするの』
『Kさんです』
『あ、そうなんだ。おい、金重、相原が結婚するって言うから、何かパーティー・・・何だよ。』
『あの・・・』
『何だよ、折角おめでたい話なのに辛気臭い顔して』
『実は僕も結婚するんです』
『え!マジで。誰と』
『Nさんです』
『は!えらく歳離れてるけど・・・』
『そんな事ないっす、たった10歳です』
『んん・・・まあ、おめでとう。じゃあツッチーにパーティーの・・・』
『ヒロキごめん!』
『何だよ』
『実は・・・』
『まさか土屋先生まで嫁さんを貰おうとしてるんじゃないだろうな!』
『・・・』
『誰とすんだよ』
『お前の知らない・・・』
『あ!もしかして、この前言ってたファミレス勤務の!』
『えへへ』
『てめー!20歳も年下なんて興味ないって言ってたじゃねえーか!』
『心変わりしたんです』
『・・・』


俺は3人の突然な報告に、気の利いた言葉が見つからず、しばらく経ってから、こう言った。

『そーいえば、正村はまだ式あげてないよね』
『うん』
『じゃあ、4カップル合同で結婚式すれば良いんでね?』

自分達の幸せ度数を全開にアピールする事が、俺に申し訳ないようで気を使ってくれている感じだったが、逆にそれが俺を惨めな気持ちに加速させるので、そういう事を言ってみた。すると4人は今まで抑えていた気持ちが、まるでダムの門を開け、凄い勢いで流れ出す水のように大喜びをして、俺はというと、ダムの下に沈んだはずの村が水面上に現れ、からぶき屋根の上に体育座りしているような気分になった。

『私、四組合同で式をあげるなら、やっぱり千本桜ホールが良いです』
『ああ、いいですね、僕も賛成です。ねえ、土屋さん』
『俺は少し恥ずかしいけど、金重がそういうなら、てっちゃんはどう』
『俺も千本桜ではハンバーグで何回も公演しているし、縁ある場所だと思います』
『そっか・・・じゃあ、俺から千本桜の三田社長に式場として貸してもらえるから聞いてみるよ』

四人は予定調和の如く、揃って『よろしくお願いします』と言った。
瞬きをする間に時は流れ、合同結婚式の当日、俺は何故だか車椅子に座って四人の晴れ姿を見つめていた。

『金重、ネクタイまがってるぞ』
『あ、すいません。ありがとうございます。オオニシさん』
『なんだよ』
『本当にすいません』
『何が』
『だって・・・もう歩けないかもしれないのに・・・』
『金重さん!それは言わないって約束でしょ』
『だって、僕・・・相原さんは、素直に今日を喜べるの』
『・・・』

土屋と正村の表情も段々曇ってゆくので俺は車椅子から立とうした。然し、足がまったく動かずに車椅子から無様に転げ落ちると。

『ひろき、無理するなって』
『何で、何で俺の足、動かないの』

結婚式の2週間前に俺はオートバイで交通事故を起こし、下半身の神経を失っていた。皆、結婚式は見送ろうという話をしていたそうだが、俺が病室のベットの上から『やれバカ!』と言ったそうだ。
神父の『誓いますか』という問いに、いの一番で土屋が『誓います』と答えるのだが、たった5文字の誓いますを噛んでしまい、それなのに何もなかったかのような表情で神父を見ている。金重と正村は必死に笑を堪えるが、相原は空気を読んで二人を睨みつけた。

まるでクソつまらない映画を観ている感覚でもあったが、一瞬でも彼らの晴れ姿を見逃すまいと、舞台上を見つめる俺は客席に俺しかいない事に違和感も感じなかった。

式も無事に終わり、4カップの記念写真を撮ろうという話になった。三脚も無く、持っていたカメラは何故だかタイマーもない、使い捨ての『写るんです!』だった。四人に撮らせる訳にもいかないので。

『俺が撮るよ』
『すいません』
『いいんだよ、ほら笑って!』
『ニコニコ』
『うそ臭い笑だね、ツッチーは』
『うるせー!早く撮れ』
『はいはい、もっと寄ってよ、フレームに入らないから』
『こうですか』
『もっと』
『こうですか』

そう言いながら自分も慣れない車椅子で後に下がると、ひな壇の角にぶつかり、今度は車椅子ごと転んでしまった。

『あ!』
『危ない!』
『大丈夫ですか!』

少し痛かったが、俺に近寄ろうとする皆の表情は、想われるってこういう事かと教えてくれたような、そして一生忘れたくないと思った。

『大丈夫だから、ほら、並んで』

感極まって涙ぐみ相原と正村、白い葉でピースサインをする金重、ナルシストぶりを発揮する土屋の新郎新婦8人をフレームに捉え、シャッターを押した。

『もう一枚、撮るから』

っと、写るんです!のネジを巻き、再び彼らをカメラのレンズから覗き込むと、舞台上は誰もいなくなっていた。不思議に思った俺はカメラを膝の上に置き、慣れない車椅子で劇場内を右往左往した。
何故、そう思ったか解らない。でも、カメラに写して彼らが消えたとするのなら、自分で自分を撮っても、ここから消えるはずだと。そして彼らのいる場所へ移動できると。

自分自身にカメラを向けて、シャッターを押す。然し、俺は同じ場所にいる。何度も何度もシャッターを押す。相変わらず、そこに一人でいる。自分が焦っているのが至極わかった。自分が不安になってゆくのも恐怖心を抱えているのも。

ビルの三階にある千本桜ホール。俺は階段に向かう。車椅子では下りれるはずもないから、戦場の兵隊のように匍匐前進で一階まで下りた。すると今度は、さっきまでいた三階から彼らの笑い声が聞こえる。何度も4人の名前を叫んだ。しかし俺の声は、幸せそうな笑い声で掻き消された。

途方に暮れた。

ビルの一階で彼らが下りてくるのを待ちながら、およげたいやき君を唄っていた。段々と眠くなってきた。外はまだ寒かった。でも、もうどうでも良くなっていた。ただただ、眠かった。視界が消えてゆき、自分の意識が堕ちるの感じた。






次の瞬間、俺の視界には自分の部屋の天井が映った。
すべてが夢だったと認識するのに10秒はかかった。
唇が誰かに殴られたみたいになっていて、少し痛かった。


そんな朝を迎えた。
そんな朝の夕方には稽古がある。



TOKYOハンバーグ公式サイト

コメント

  • 2011/04/02 (Sat) 13:52

    大西さん…実は僕も…

  • 2011/04/02 (Sat) 16:55

    え?

    こぬさん、何ですか・・・?

    まさか、こぬさんまで結婚・・・!?

    逆ですよね、俺と同じ方ですよね?

    • 大西弘記(TOKYOハンバーグ) #-
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